♠2月号 心のおもいを彩る絵画表現 ♠
2020年01月23日
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答えてくれる人のいる温かさ(俵万智)
節分、成田山新勝寺の豆まき、年男年女が「福は内、ふくはうち、ふくは うち」と殻付きの落花生をまきます。「鬼は そと」とは言いません。
房総半島には菜の花が咲いて、春はもう近くまでやってきています。
幼児は、お絵かきが大好きです。お話をするのと同じくらい大好きです。
子どもと絵を描く時、子どもたちに語りかけます。
「何を描きたいのかな?」着色の前に「大切な部分はどこなのかな?」
子どもたちも描きたい世界が心にイメージされると、夢世界が広がって、その思いが指先に伝わると、さらに描きたい世界が広がっていきます。
世界に一つしかない子どもの宇宙の世界の誕生です。
子どもたちが描く一本一本の描線に、子どもの心が語りかけてきます。
私たちも子どもの絵に語りかけて見ませんか?そして、聞こえてきたこと、感じたこと、見えてきたことをお子さんにお話ししてみて下さい。
そうした会話を通して、画用紙に描かれた世界の一本の描線、色、形にこんな世界が描かれていることに気づかされると思います。
4歳のお誕生日を迎える頃になると、子どもが一息に描く円い描線の始点と結びがつながるようになります。げんこつ握りだった鉛筆が手首から指先に移行して、描線がやわらかくなって「つながる」喜びを学ぶ時期です。
そして画用紙に描きたい物がならんで描かれます。「ならぶ」ことの学習です。「リンゴを描いてみよう」と話しかけると、心に描かれたリンゴを横に並べて描くようになります。
5歳になると並べて描くだけでなく、画用紙の縦横、上下を手前のリンゴは大きく遠くのリンゴは画用紙の上に小さく描いたりします。手前を下に大きく遠くを上に小さく描く、いわゆる数量計の遠近、量感の世界が育ってきています。
手前が「八の字型」に広がった線路を蛇行して走るD51は、男の子が好む題材です。正面は大きく、後ろの車輌は小さく、正面は幅広い線路。そして車輪も前は大きく後ろは小さく描くことができます。手前を広く色濃く塗り、遠くを薄くぬることで奥行きのある風景が表現されます。空にふわふわと踊る様に描く浮かぶ雲は「満足印」です。子どもは描いた絵に太陽を描くことで満足します。
真っ赤に描かれた太陽は自分で満足したご褒美のハナマルです。太陽は室内でも水族館を描いた魚にもあっぱれ印で登場します。
子どもは、様々な角度からものごとを観察したり、考えたり、工夫したりする力が身についてくると、そのイメージした世界を言葉や身体で表現するかでもだえます。子どもの絵の世界は、心の表現の世界です。表現する技法が身につくと子どものイメージの世界はさらに広がります。
年長クラスになると、個人用のスケッチブックを手元に置いて、日常のもの、友だちの姿、小鳥や昆虫を鉛筆でデッサンできる環境を配慮しています。
鉛筆で描く一本一本の描線に込められたお話の世界を消さないように「粉コンテ」「絵の具」等で混色を避けて丁寧に色づけをします。
子どもの心の発達の中心軸は「自我、自分」です。子どもの描く世界のどこかに「自分」が登場しています。4歳児が牛を描く時、後ろから描いても横から描いても前から描いても顔はこちら側正面を向いています。
子どもの描く世界には自分がいます。太陽であったりお地蔵さんであったりします。「あなたはどこにいるの?」と問いかけてみて下さい。思わぬところに「自分」が描かれていて思わず抱きしめたくなる思いにかられます。
子どもたちと一緒に絵を描いていて、あらためて子どもたちの描画表現力の面白さ、すごさに驚かされます。
「すごいね」「おもしろいね」「ステキだね」絵を描いている子どもの背中ごしに、ささやく私のほめ言葉に、子どもたちも素直に受け入れてくれます。
「せんせいも上手だね。この絵うれるよ」とほめてくれます。お絵かきを通した「老人と子どものポルカ」です。
「幼児期に泥んこになって、頭と体と心が生き生きと輝いて遊んだ子どもは、9歳の頃にぶつかる高いハードルをクリアーできる」
〈内田伸子お茶の水女子大教授)
年中、お誕生5歳になる子どもたちは、理屈よりも感覚で行動することが多くなります。従って目で見た物、心で感じたこと、手で触った物等は、その瞬間の触覚,感覚、印象等で、心にイメージした世界を大切にします。いやな物はいや、ほしい物はほしい。
「どうして?」ときいても「すきだから」という感覚が先行します。
ですから、この年齢はたくさんの経験を広げることが大切です。絵を描く時でも子どもは、自分の目で見た物、感じたものを大胆な描線で一気に描きあげます。
「遠い近い」や「大きい小さい」理屈では無く感じたままに表現します。五重塔を描いてもかっこよいと感じた先端の五層が大きく描かれたりします。
お誕生6歳、年長になると伸長期に入り、背丈が伸びて、頭でっかちの5頭身から7頭身になります。描画活動でも天と地の水平線や地上線が描かれます。
左を細く、右を太く描いた坂道、手前を広く色濃く塗り、遠くを薄くぬることで奥行きのある遠近を表現します。空に浮かぶ雲の大小や形・・様々な角度からものごとを考えたりする柔軟性も出てきます。
水族館の魚群を見ている友だちを小さく描き、その姿を手前で描いている自分を大きく描く工夫もわかってきます。
こうした学習は、➀考える②も考える③イメージする④いろいろ工夫する・・・という環境学習の場が必要です。そのためには答えはたくさんある選択できる場が用意されてなくてはなりませんね。暗記で学習するより、答えが複数あり答えに至る経路も複数ある問題を解くこと、考える習慣が大切です。
そうした意味で描画表現でも、自分の一番大切な部分を強調することを大切にしています。例えば跳び箱を跳ぶ子どもの手指の表現、自転車を描くときの足の位置等・・・自分が体験で得た感覚を表現する力が身についてくると、そのポイントが自然に表現されてきて、想像力も創造力も広がっていきます。
言葉の筋道が出来、語彙も想像以上のスピードで獲得しているだけに、描画能力もさらに豊に表現された子どもらしい絵が描かれていきます。