♣3月号 天高く羽ばたく子どもたち ♣

2019年02月28日

理事長コラム

むかし むかしのそのむかし
椎の木林のすぐそばに
小さなお山があったとさ あったとさ
まるまる坊主のはげ山は
いつでもみんなの笑いもの
「これこれ すぎの子 おきなさい」
お日様ニコニコ声かけた 声かけた

一ィ二ゥ三ィ四ォ 五ィ六ゥ七ァ
八日 九日 十日たち
ニョキリ芽が出る 山の上 山の上
小さな杉の子 顔出して
「はいはい お日さま 今日は」
これを眺めた椎の木は
アッハハのアッハハと 大笑い 大笑い

「こんなチビ助 何になる」
びっくり仰天 杉の子は
おもわず お首を ひっこめた ひっこめた
ひっこめながらも 考えた
「何の負けるか いまにみろ」
大きくなって 皆のため
お役にたってみせまする みせまする」

ご存じですか?「お山の杉の子」という童謡です。昭和20年代生まれまでのおじいちゃん、おばあち
ゃんでしたら、今でも忘れずに歌えることと思います。
当時、国民歌謡として親しまれた「リンゴの歌」と同じように、子どもたちに親しまれました。
現代に生きる私たちにとっては、「杉」というと「花粉症」を連想しますね。 しかし、国土の80%以上を森林で囲まれる日本にとっては、杉の木は、桜と同様に日本特有の樹木として親しまれました。特に杉の木は、縄文時代から住居を始め、日常の生活用品等の材料として「杉」に依存してきました。したがって、杉の植樹の歴史は縄文時代の後期にはその形跡があったそうです。
あらためて「お山の杉の子」を口ずさんでみました。曲もゆったりとしてうたいやすく、歌詞もお話し風でほほえましい童謡ですね。ご存知の方がいらしたら、子どもたちに聞かせてみてください。山があって杉の苗木が一面に植樹されて成長していく姿それを見守るお日様の笑顔は、子どもたちが得意とするお絵描きの世界です。
私が小学校時代を過ごした昭和20年代は、日本全体が敗戦という荒廃の中から立ち上がった焼け野原の時代でした。住宅も家具も生活用品も素材は紙と木と土でした。

お椀やらお箸、船、壁板・・・その素材は、日本古来の木材である「杉の木」に依存していました。そのため、森林の樹木は伐採されるために日本中で杉の苗木の植樹は奨励されたようです。そうした背景からすれば、「お山の杉の子」は国民的な童謡として親しまれたのも納得がいきます。
しかし、よく口ずさんだ「お山の杉の子」の歌詞は、終戦後に歌詞を書き替えられたことを最近知りました。原曲は第2次世界大戦中の昭和19年に作詞されたそうです。あらためて「お山の杉の子」の原曲版の歌詞を調べてみると、

さぁさ 負けるな杉の木に
すくすく伸びろよ みなのびろ
スポーツわすれず 頑張って、頑張って
すべてに立派な人となり
正しい生活 ひとすじに
明るい楽しい このお国
わがニッポンを 日本をつくりましょう つくりましょう

と戦時中の戦争勝利に向かっての統制時代の臭いを濃く感じます。
終戦から70年、戦後の民主教育で日本の学校教育のあり方も180度変わったと云われます。先進国としてこれから経済発展だけで無く、教育文化面においても世界に貢献する人材の育成が課題になってきます。こうした人材の育成は「お山の杉の子」のブロイラーシステムでは不可能です。
そうした視点から見るとまだまだ日本の学校教育は、戦前の統制教育の色彩からは脱皮していません。
21世紀の文部科学省が掲げる教育の柱の一つに「個性教育」があります。
個性教育の基盤は、昔も今も「学校」ではなく「家庭」だと私は考えます。
家庭で生まれた子どもは、それぞれの家庭で「個」を確立して、そして「学校」という「集団教育の場」において、人間関係を学ぶことで、自らの力でそれぞれの「個の資質」を磨いていくのです。
欧米では、歴史的にも「個」が確立される文化が有り、その上に「集団社会」という学習の場が形成されています。
日本も先のオリンピックを契機に「個性」を大切にする土壌が整ってきてはいます。しかし、まだまだ「お山の杉の子」の臭いが強いですね。杉の子が人間の子でなくロボットに見えたりしませんか。
私たちはともすると「個」は独立したものというよりも、つながりの中の「個」と捉えがちです。精神医学の作家 なだ いなださんは、子育てをする場合
北山杉のように、まっすぐに聳える杉林環境教育ですか?
それとも、多種多様な木が自然に並ぶ雑木林環境教育ですか?
「みんなを並べて同じような条件で競って育てる杉林」と「多種多様な特色を持った木々がそれぞれの特性を生かしながら育っていく雑木林のどちらを子育ての学びとしますか?」と なだ いなださんは問いかけます。
現在の価値観では、雑木林の環境で育てることの方が正解なのでしょう。
しかし、正解はありません。それぞれのご家庭の考え方で異なるでしょうし、何よりも子ども本人の選択肢にゆだねることが大切ですね。
さぁ 春の訪れです。保育室から卒園送別の歌声が聞こえる時期になりました。年長さんが幼稚園の門を天高く羽ばたいて巣立っていきます。この羽ばたきは、高く雄々しく輝いて天を貫く羽ばたきであることを願っています。