5月コラム ◆子どもが考え判断をする力を伸ばす◆

2015年04月28日

理事長コラム

五歳と九歳の主体的な遊び

子どもが考え判断をする力を伸ばす

私の好きな絵本の一つに中川ひろしさんの「おおきくなるっていうことは」という絵本があります。

 おおきくなるっていうことは、

   ようふくがちいさくなるってこと

 おおきくなるっていうことは

   あたらしい はが はえてくるってこと

 おおきくなるっていうことは

   みずに かおをながくつけられるってこと

 おおきくなるっていうことは

   あんまり なかないってこと

 おおきくなるっていうことは

   まえよりたかいところに のぼれるってこと

 おおきくなるっていうことは

   たかいところから とびおりられるってこと

   それもそうだけど

   とびおりても だいじょうぶかどうか

   かんがえられるってことも(略)

  大きくなるってことは そういうこと

  またひとつおおきくなった

                  おめでとう みんな     (中川ひろたか童心社版)

「まつぐみになるってことは?」

 いつもより凛としたホールにクラスごとの椅子席に背筋を伸ばして着席する。

来賓席には園長、副園長、教頭、各主任が並び、右サイドには、年長になってお世話になる

音楽、絵画、体操の先生が着席して、それぞれ「まつぐみになったら」というお話をしてくださいました。

子どもたちは、一言一言に「ハイ!」と答え、「ありがとうございました。」としっかりと挨拶をしました。

私の挨拶は、「松組になったら、自分で考えて解決する。」

「仲間と知恵を出し合って協力する。」

「ピンポン玉が、地面に掘った小さな筒の穴に落ちてしまった。」

「さてどうする?話し合ってみよう。」と問いかけました。

「スコップでほる。」「それは だめっ」「だめならブルドーザー。」

話し合っても知恵が出ない。ついに時間切れ。その瞬間、

「水をいれて うかばせる!!」、

後のグループから声が出た。

年長担任の先生たちは、歓声を上げ、立ち上がって拍手。

その後、「棒にテープをはって、くっつける。」

つぎつぎに名答、珍答が出てきました。

「そうです。お友だちと話し合って考えると、素敵な答えが出てくると思うよ。」と話を結びました。

今年も楽しみな年長さんが誕生しますね。

今年の松組さんも、花組、竹組の時、よく遊びました。泥んこパンツになって、あそんだ経験が、

「考える智恵」になってくれるとおもいます 。

年長になって大きく変わることは、時間をさかのぼって、考えることが出来るようになることです。

今日があって、明日につながり、明日のことを考えて計画して、行動ができるようになるのです。

絵巻のようにつながって過去と未来へと広がって考えるようになります。

心が広くなることで、友だちの立場に立ってものを考えたり、友だちの心に映る自分を考えたりできるようになるのです。

自分で楽しんであそぶ環境や教材を準備してあげると、形のないものを想像したり、

その想像したものを具体的に形にしたりする創造性も育ってきます。

お話も、文法もしっかりと談話方式になり、

目で見たこと、身体で経験したこと、心で感じたことを集めて、まとめてお話を作ることもできます。

実際にあったことと「こうなったらおもしろいなぁ」と思ったことを上手にまとめることもできるようになります。

うそと本当の区別が解って、うそをつくこともあります。

この時期に主体的にしっかりとあそび遊びこんだ子は、発達の壁といわれる9歳のハードルを

クリアーする力を育むといわれています。

9歳になると、脳の発達は、前頭連合野のシナプスが、ネットワークされて、

意志力、判断力、モラル、情緒が著しく成長して脳の完成期に入るといわれています。

お茶の水女子大学の内田伸子教授は、

「九歳は、人間が生きていくうえでのアンテナともいえる知恵が形成される大切な時期。

同時に「大きな壁」の時期で、3〇%近くの子が壁を越えられないで落伍していく。」と指摘しています。

内田さんは、脳の働きを具体的に分析しながら、

「叱られながらやった勉強は身につかない。

なぜなら、偏桃体が緊張や不快感を感じると、海馬が失敗例を思い出して真っ白になるから。

逆に偏桃体が面白い楽しいと感じると情報伝達物質が送られ、海馬を活性化して記憶の貯蔵庫にどんどん蓄える。

「好きこそものの上手なれ」である。

難関学校突破組の多くは幼児期に生き生きと泥んこになって遊んだ子が多かったというデーターがある。

幼児期に主体的に外遊びで得た経験は、考えるという思考能力となり、想像力という能力を育てていき

9歳の壁を打ち破る知恵となっていく。

夢中になって遊ぶ幼児期の体験は、決断・判断・想像・感性・芸術・・・

応用力を司る前頭連合野が育つ源になる。」と語っています。

私の小学校4年生の時、中学2年の時、

「それまで虫を追いかけ、田んぼに入ってドジョウやバッタとりで、泥まみれになって自由奔放に

あそんでいたのに、机に向って勉強すると、学校の成績が急激に上がった子に出会ったことがあります。

最後に内田伸子教授の言葉を借用します。

「子どもを伸ばす援助とは、子ども自身が考え、判断する余地を残すこと。

そのことで子どもの自律的思考力、創造的な想像力が育つ。

保育者や保護者にできることは、子どもの考えを先に進める足場をかけてあげることまで。

どの足場を上り、どちらから上がり、どんな作業をするか、決定するのは子ども自身である。」

全くその通りだと思います。

先日、駅前で買い物途中のお母さんがうれしそうにお話してくださいました。

子どもが幼稚園から帰ってくるなり「おかあさん、おかあさんきいて!きょう、とても幸せだったの。

だって、お友達といっしょにお外でたくさん遊んだの。ようちえんおもしろかった。」

お話してくださるお母さんのとても幸せわせそうな笑顔を拝見して、

その後、わたしもとても幸せな思いに包まれました。

翌日、担任の先生に「Mちゃん、幼稚園が楽しくて幸せだってよろこんでいたよ」と報告しました。

担任の先生の後姿がはずんでとても幸せせそうでした。

「おおきくなるってことは 幸せをわかちあえること」なんでしょうね。

幼稚園は、子どもの世界。だから幸せがただよっているのです。

今朝、早朝散歩をしているとき、目の前の緑の木立を黒いものがサッーと横切りました。

「あっ ツバメだ」思わず声に出しました。さわやかな季節を楽しみましょう。