2月号 ♣「子どもが描く世界は心の原風景」♣

2017年01月26日

理事長コラム

「子どもが描く世界は心の原風景」

 子どもの描画には道筋がある

 

先日デパートの文具売り場で、色鉛筆を買いました。

今年の手帳の片隅に日々の生活で印象に残った風景や出来事を軽くデッサンしておくようにしています。さりげないことですが、生活にリズムが出て何かとても幸せな気分になれます。

新幹線の車窓から見る、走りすぎていった瞬間の風景をイメージして絵でメモる。正月の成田新勝寺の初詣の人波をデッサンする。

手帳を見るたびに、過ぎ去ってしまった風景が心の風景としてプリントされていくような気がします。

私の年齢になると、日めくりカレンダーのように、残された時間が、日々薄くなっていく気がして、日々の生活の風景をスケッチすることが心の安らぎにつながるのかもしれません。

そこで子どもたちに、サッカーをしたり、木登りをしたり、お料理をしている絵を描いてみようと提案しました。「お料理している絵は描けるけど、サッカーは・・・むり!むり!」といわれました。確かに動いている人間を描くのは難しそうです。でも、子どもの世界は動いているのが大半。「うごくとかっこいいんだけどなぁー」とつぶやいています。

言葉と文字の表現がまだ、充分でない子どもにとって、絵を描くことはとても大切なことです。日記とは言いませんが、絵でお母さんとお子さんと会話してみませんか。お父さんの働いている職場や仕事を絵に描いて子どもたちに伝言してみてはいかがでしょう。

絵日記を通じて子どもとの会話が弾み、感性が豊に成長する時期の子どもの「宇宙の世界」を楽しめるかもしれませんね。

子どもたちも絵日記に気持ちを描くことで、心の風景が広がり、絵日記がやがて、子どもの生きる力のストックにもなるとおもいます。

 

なにもかも思い出に残る2月(俵 万智)

2月は年齢、月齢にかかわらず一人一人の子どもの成長が目に見える月です。文科省が定める幼稚園教育要領が目指す子どもの姿も、卒園する直前の2月の5歳児の姿です。

子どもたちは、この寒さにかかわらず、元気に園庭に出て、幼稚園の生活を楽しんでいます。きっとこの時期になると、環境にも慣れて、自分で考え自分で解決する力もつき、先も読めて、自分の位置が安定するのでしょう。

年長のスタッフも、卒園していく子どもたちの生活記録を整理しながら、健やかに育っている一人一人の子どもの成長に、嬉しくもあり、寂しくも感じる春を待つ2月の保育風景です。

私もできるだけこの時期は、子どもと一緒に絵を描いたりモデルになったり、輪の中に入れてもらい、お話をする時間を大切にしています。

子どもと一緒に絵を描く時間は、心が和みます。子どもが絵を描く時の教師の導入や言葉がけで、描く絵が異なるケースがあります。例えば、4歳児がウサギの絵を描く姿を観察していると、ウサギをそのまま描くのではなく、ウサギを抱いたり、触ったり、ウサギの感触を身体に刷り込んでいます。しばらく考え、つぶやいてから、もうウサギも見ないで一気に画用紙にうさぎを描いたりします。

子どもが成長していく道筋が何期かに分けられます。2歳8か月頃は、目に見えて子どもが育つ臨界期です。他人の心に映る自分を意識する4歳のお誕生頃から人とのかかわりを意識する臨界期です。

そして、自分で自分をコントロールする力が育つ6歳の2月頃を幼児から児童への羽ばたきの臨界期として考えています。

この臨界期における心と体の成長は、子どもが絵として描く描線や形や色、構図等の表現技法の進歩と共通点が見られます。

例えば、2歳の前後に見られる線の描き方やその形、3歳の子どもが描く○や渦巻きの描き方、○を描くとき、始点からの描線が丸くつながるまでの時間…、心と体の成長過程と同じような道筋をたどっていきます。

3歳の子どもはリンゴや顔・・丸い世界を描きます。よく見ると、描線の中のどこかに自分が描かれています。

4歳の子どもの絵は、絵記号(チューリップ、ブランコ、お日様…)が描かれます。絵記号や塗り絵から脱皮して、自分の描線で描けるまでに時間がかかります。最初は○の世界、そしてバスや電車などの□の世界へ移行します。

友だちを描くとき、丸い頭から横に手が描かれて、首と胴体が無い頭足人間は世界中の子どもがたどる、共通の道筋のようです。

左右対称の平衡感覚に拘ってきた子どもが5歳の2月の今頃になると、立ち姿から歩く姿を描くようになります。ところが、気持ちが先行して技法が伴わない悶えが出て、動きを表現するために、クレヨンのタッチや色の濃淡や描線にゆがみを入れたりして工夫するようになります。友だちの顔もお人形を描く時も、顔から鼻、目、口に歪みを工夫して「ガビガビの表情」を描くようになります。

この頃になると、地面と空を描き基底線がでてきます。遠近や奥行き量感などが表現されます。例えば、水族館で泳ぐ魚の群れ、それを見る子ども、そして、それを描いている自分、という奥行き距離感が描ける作品が出てきます。

雨の色、風の音、空気のニオイを感じたままに描く。さわってみる、嗅いでみる、動かしてみる、乗ってみる、のぞいてみる・・・・ことで目に見えない裏側や走る新幹線のスピードまで表現します。

画用紙に描かれた子どもの心の表現を聴診器であてるように耳を傾けてください。きっと子どもの宇宙へのつぶやきが聞こえてくることでしょうね。

子どもの心の発達には、発達の道筋を秘めたプログラムがあると私は考えています。人生は、ほぐれたり、もつれたりの双六のようなものです。順調にほぐれると、また、もつれて停滞することがありますね。

子どもの成長ももつれたり、ほぐれたりの繰り返しです。近頃話題になっている「9歳の壁」「14歳の壁」も成長のためのハードルです。自律神経が形成される9歳頃までは、身体で学習するドロンコあそびの場が必要です。この泥んこ遊びの経験が、9歳のハードルを越える力として育つ土壌となるはずです。

小学校4年になると、低学年で学んだ基礎知識を活用する学習(作文、詩、実験、応用算数)教科が増えてきます。記憶だけの勉強と異なり、考える力・創造する力・工夫する力が問われてきます。その壁を乗り越える「生きる力は、幼児期のドロンコになってあそぶ環境から育まれる」と、お茶の水女子大の内田伸子教授が大脳生理学の視点で実証されています。

幼稚園の教育の真髄は、その成長が目に見える『今』に期待するのではなく、小学4年生頃になったら、「幼稚園であそびを通して学んだことが、役にたったなぁ」と、子ども自身が実感してくれる「心の原風景」をしっかりと体験する「場」を保障することですね。

子どもの絵は、大人の絵とはまた異なった意味で、題材を写実的に描いた本物に近い絵がレベルの高い絵として評価するのではなく、子どもが心の内を語りかけてくる思いを大切にしたいと考えています。

子どもが描く世界は、子どもの心のメッセージです。

一枚の絵から発する子どものつぶやきに耳を傾けてください。